2009/09/14

お客様があっての演劇

コースト・オブ・ユートピア、初日を見ました。

演劇にはお客が欠かせないということ、
「ナマ」の意味を
強く感じました。
お客さんの反応(主に笑い)が舞台をさらに盛りたてます。
お客がいて、初めて完成体となるのです。

10時間。
終わりに近付くにつれ、客席と舞台(役者)が
どんどん打ち解けていくのがわかりました。
10時間だからこそ生まれる空気感。

コースト・オブ・ユートピアは大成功だと思いました。

2009/09/12

最終日

終わりました。
2ヶ月、短かった。
いや、長かった。

いろいろな方面で勉強になりました。
いい体験をしました。
たくさんの人と出会いました。
素晴らしいプロ業を見ました。
極上の向上心に包まれた2ヶ月間でした。


明日は初日。
私はお客さんです。
ドキドキします。

2009/09/11

47日目、責任は役者へ

4時間程で、やっと全ての場あたりを終え、
第1部の通しをしました。
今日も、私の注目は
通し後の蜷川さんの言葉でした。

稽古場でやった時の通しでは、
「みんなよく復習したね。よく頑張ったね、おつかれ。」
というお褒めの言葉でした。
しかし、もう、本番前最後の通し。
優しくはありませんでした。

全ての役者を集め、
「ダメ出しが全然なおっていない」
イライラ。

それもそのはず。
通し前の集合では
「直したところは絶対よくなっているから」
と蜷川さん。
場あたりが終わった以上、
演出家として出来ることは全て終わったのです。

あとは、役者さんが今までのダメ出しを
意識的に改善することにかかっています。

46日目、主演への・・

明日は通しの予定ですが、
場あたりは、演技指導を交えながら、やはり少しずつ進みます。
美術さんや役者さんがこのペースで大丈夫か?と不安を抱いています。
(絵を描いていたらいろいろ聞こえてくるのです。)


今日驚いたのは、
主演の阿部さんに対するダメ出しがあったことです。
稽古が始まって2ヶ月、阿部さんに対して
ほとんど演技の注意はありませんでした。
しかし、ゲルツェンが息子に自分の著書を渡す際の長台詞で
「伝わってこない」
と、グサッとくるダメ出しです。
蜷川さんいわく

声が低すぎて、感動的ではない。
もっと息子に対する熱い想いが出たほうがいい。

とのこと。

やり直し、やり直し、やり直し。
普段注意を受けない主演に対するダメ出しに、私は戸惑いました。

明らかに高いレベルを目指す蜷川さん、
主演のプライドを傷付けないように言葉を選びつつ、
厳しい内容のダメ出し。
それらを無言で聞き、改善しようと演技を繰り返す阿部さん。
なんとも重々しい空気でした。

「歳を取ると、次の世代に想いを伝えたくなるものだ」
と、蜷川さんの日頃の実感(?)も聞き入れながら、
阿部さんはだんだんと
熱いゲルツェンに変わっていきました。
ただ、残念ですが、
このシーンに感動的な音楽をかけることになってしまいました。
求めている感動は、演技だけでは表しきれないという
蜷川さんの判断です。
ただし現時点では、です。
私は信じています。
本番が始まったある日、
蜷川さんがこのシーンから音楽を取ってしまうことを。

2009/09/08

45日目、空間を広げる

今日は演技指導というよりは
役者の動きや舞台美術の直しメインでした。

劇場入りして蜷川さんが頻繁に口にしている言葉は、
「広げよう」
です。
客席通路を多用したり
舞台の下段を効果的に使ったりして、
舞台空間を広げようという試みです。
特に、台詞の無い時の役者を下段に配置することで
会話している人物が引き立ちます。
そうやって視界の整理とボリューム調節が同時に進んでいます。


自分の絵のことを言いますと・・
水野さんの肖像画ですが、
髪型があまりにも違うので上から書き直しです。
明日の朝、早めに行って描きます。
にしても、今日つくづく思いました。
このような一流の舞台の美術に少しでも携われて、
私は幸福です。


スタッフさんが今日の休憩中、
グッタリしているのを目撃しました。
稽古の間は俊敏な動きでテキパキと妥協のないスタッフさん。
疲れはピークだと思います。
本当に、公演が成功することを切に願っています。

44日目、——


どんどん進んでいきます。

演技指導や動きの指示が昨日より多かったような気がします。
「こんなこと(演技指導)出来るの最後だから」
と蜷川さん。
本当の本当に最後です。
10日に全通しをすると聞いています。
とすると、あと2日しかありません。
しかもシーンはどんどん進めていき、
もう二度と後戻りすることは出来ないのです。


今日は、演劇的に見応えのある場面をやりました。
“ マネの描いた絵と舞台上に居る役者が重なる ”
という、無理難題のト書き。(作家の挑戦状)
紗幕にマネの『草上の朝食』が映し出されます。
観客の集中力が切れてくるかもしれない2部ですが、
ここでハッとすること間違いなしです。


2009/09/06

43日目、ここにきて変更


変更、変更の嵐。
昨日は小道具の位置を変えましたが、
今日役者の動きの変更です。

特に変わったのが、2部1幕1場の長いシーンです。
埼玉の稽古場で位置を細かくつけて、
役者もそれに慣れていました。
「今までの稽古はなんだったんだ?」
と思わず考えてしまうほどの、大幅な動き・位置変更です。
次第にエスカレートしていき
「なんだか、いろいろ気になってきた」
と、蜷川さん。
動きに併せ、台詞のタイミングや間についても
細かい指示が続きました。
このシーンの役者に対して
「みんな下手になったぞー!」
と演出家は(笑いをとる調子で)言いましたが、
完成度が上がってきた故、
小さな粗が見えてきたのだと思います。


ある男優に
声を荒げて台詞の言い方を注意することも
ありました。
その俳優の癖で、
演歌のように独特な強弱をつけてしまう点です。

稽古場でも言われ続けていた事です。
劇場に来て、再度、
周囲が凍り付く程のかなり激しいダメだしです。
しかしその後、スタッフが転換の確認をしている間
優しくその男優を呼び寄せて、
長い間、台詞の強弱を正していました。


2009/09/05

42日目、舞台稽古


花粉症か、取手の我が家に帰ったからか、
鼻がムズムズするのでマスクをして劇場に向かいました。

廊下には、台詞練習やアップをする役者さん。
スタッフさんは忙しそうに動いていて、
私が劇場に着いた頃には
音響さんの音量確認が行われていました。
舞台を両側からはさむ形の客席には、
ニナガワスタジオやネクストシアターの役者さん方が
続々と見学にやって来ます。
私もその中に紛れて席に着きました。


稽古は主に、転換の練習です。
照明・音響・衣装・美術さんの手順を
再確認しながら進めていきます。
役者さんも立ち位置や動き、長い通路での演技始めなど、
各自確認していきます。

蜷川さんが照明との兼ね合いを見て、
あるシーンの小道具をほとんど取り払う提案をしました。
すると演補・助やスタッフさんが
素早く転換の手順計画を立て直します。

そしてスタッフが動き回っている間、
蜷川さんは役者への演技指導をします。


劇場で演じる役者さんを見て、
私は今日、驚いたことがひとつあります。
役者さんの声についてです。
劇場で、聞こえやすい人とそうでない人が
ぱっかりと別れたのです。
おそらく過去に正式な発声練習を通過した人と
そうでない人との違いだと思います。
宝塚や劇団四季、
その他の劇団やニナガワスタジオの方々の声は、
広い空間に「響く」のです。
客席から聞いていると、全く声の質が違うのです。
声量よりも、質です。

私は改めて発声の大切さを知りました。


2009/09/04

41日目、あかりあわせ


コクーンでの照明合わせです。
スタッフさんは昨晩泊まりの作業だったそうです。
劇場内には完璧な舞台が組まれていました。

照明合わせに参加させていただきました。
禁断の舞台上にあがり、
役者の立ち位置につきました。
ここ2ヵ月間役者さんの動きを見続けて、
「私にはこんなすごい事できないや」という諦めと
また舞台に役者として立ちたい憧れが芽生え、
複雑な心情でした。

今日、久し振りに舞台に立ち、照明を浴び、再確認しました。

私はやはり、役者をやりたい人間だということを。

どうやらあがり症だし、自分の演技に期待はしていませんが、
舞台上で何者かになる興奮を忘れられずにいます。
「演じたい」という欲望は、いったい何なのでしょうか?
なぜこんなにも多くの人間が、舞台に集ってくるのでしょうか・・。

2009/09/02

40日目、全通し


10時間30分に渡る、全通しです。
始まる前は、少し異様な空気でした。
いつもよりピリっとした緊張感が
稽古場を包んでいました。

そして・・
さすがです。
全通しだからといって、
役者にブレはありませんでした。
むしろ、今までクリアできなかった難題シーンが
良くなっていたほどです。


私がこの日、一番楽しみで注目していたことは、
全通し後の蜷川さんの感想です。
わたしだけではないと思います。
稽古場の役者さんやスタッフさんにとっても、気になることは
「さあ、初通し、演出家はどう思った?」
ということだと思います。
なぜならその演出家の言葉が、
この10時間という長い作品に奮闘した日々を
有意義にも無意味にもするからです。
もちろん大事なのは
演出家や観客の評価だけではありません。
しかし、確実に、それも大事なのです。

全通しが終了したのは、夜の10時前でした。
蜷川さんは、ごく簡単に
よくなっている、良い方向に向かっている、という風な総評をされました。
そして「2ヶ月、大変だったけどありがとう」という感謝の意を述べた後、
「明日の稽古はやめよう」という突然の休日宣言。
といっても、スタッフは小屋入りに向けて作業が多々あるはずなので、
休暇をとれるのは役者さんのみですが。


蜷川さんの好評を聞いて、
皆、疲労は抱えながらも、和やかな雰囲気で
さいたま芸術劇場最後の稽古が終えました。

2009/09/01

39日目、3部2幕かえし


1部をかえした時に不在だった役者さんがいたので、
今日の前半の稽古は1部の抜きでした。

蜷川さんから全員に、
個人の描写を追求せよ
とのアドバイス。
「その人だけ追ってても楽しいっていう風になればいいね。」

いま、絵で言うと
大方の形は取れて、どんな色にするかもいろいろ試して、
あとはタッチを決めてガツガツ描き込んでいく。
といったところではないでしょうか。

様々な挑戦をしかけてくる役者も、かなり増えました。
「ここで嬉し過ぎて失神するんです」
という若手男優のアイデアには、
思わず笑ってしまいました。
観ている私も興奮するような、
何が出て来るか一瞬一瞬が楽しみな稽古場です。


抜き稽古が終わり、長めの休憩がありました。
その時、2階からぼーっとながめていたのです。

阿部さんの周りに半円になって台詞合わせをする俳優たち、
ひとりで台詞を唱え続ける人、
ある俳優さんをつかまえて真剣に話し合う演出補佐、
あ!じゃれて笑った!
つられて演出助手も笑った!
動き続けるスタッフさん、
ちょっと息をつく音響さん、
そして
演出席から稽古場全体を何処となく見ている蜷川さん。
蜷川さんは、
アスパラベーコン巻きのベーコンであり、
山芋短冊巻きの海苔だと思いました。
せめぎあう人々の才能とか個性とか努力を
みんながバラバラにならないように優しく纏め、
進むべき道へ誘導する。
みんなの味を潰さずに、むしろ引き立てる。
演出家・蜷川さんはそういう方です。


私は随分年老いた気持ちで
「ああ幸せだなあ」
なんて思っていました。
ここは間違なく、高め合う場所です。
和やかだけど、怠けは許されない。
みんな必死だけれど、笑顔がある。
私は、この稽古場にいる時間がとても好きです。
いつまでもこの雰囲気に浸っていたいと思います。
このまま見学エキスパートになって生涯を終えるってのも
ありだなあ・・なんて。
いえいえ、私が今後目指すのは、
自分でこういう集団を作り、芸術作品を制作することです。